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ヤグルマの森 岩周辺

色々な感想を書きます

『A Few Good Men』の話

映画の話

2月の上旬まではそれなりに忙しかったものの、抱えていた仕事が一段落すると同時に今年度いっぱいはそれ以上働く必要がなくなり、大学生よろしく2ヶ月ほどの春休みを享受することとなった。

暇なのを良いことに、読む時間が無いからと本棚に放り込まれていた小説類に目を通しながら、一山いくらで叩き売りされていた中古のDVDを再生し、ついでに隙あらばツイッターで配信を要求するクソみたいな生活を送っている内に2月が終わり、いい加減何か文章が書きたくなった頃に、そういえば小説とか映画の話がしたくて開設したブログがあったなと思い出し、記事を認め始めた次第である。


という訳で以下本文。


『A Few Good Men』は1992年公開の法廷サスペンス映画。
タイトルと「You can't handle the truth!」というセリフくらいは知っていたものの、自分が産まれる前に撮られた映画を見る機会は長らく無かった。
というか中古DVDが投げ売りされてなければ多分今もまだ見てない。


キューバグアンタナモ米軍基地で1人の海兵が殺害され、同部隊所属の2人の海兵が被疑者として起訴されるところから物語は始まる。
2人の弁護を担当する事になった海軍弁護士のダニエル・キャフィ中尉は、当初この裁判に乗り気では無かったが、事件について調べていくにつれて、事件当時基地で何が起こっていたのかを知ることになる。

というのがネタバレを極力排した本作の導入部。


さて、本作の具体的な特徴に触れる前に、事前知識として英米法諸国における司法制度について軽く説明したい。

「一般市民から無作為に選出された複数の陪審員による評議によって、当該訴訟事件の事実認定を行う」司法制度を陪審制という。
日本人の感覚だとあまりピンとこないかもしれないが、例えば刑事事件の陪審裁判において有罪、無罪といった事実認定を行うのは判事(裁判官)ではなく陪審員である。

アメリカ合衆国憲法には陪審裁判を受ける権利に関する規定があるが、陪審制にかかるコスト等、デメリットもあり、実務上はアメリカの刑事事件の大多数は司法取引によって処理されている。


本作の法廷サスペンス物としての最大の特徴は、この陪審裁判が軍法会議、つまり、軍内部の司法作用によって進行する点だろう。
被害者や被疑者は勿論、検察側、弁護側、判事、果ては陪審員までもが全て軍人なのである。
この事が実は裁判全体にある種の「縛り」を掛けていて、物語後半、その「縛り」が明確な形で視聴者に提示される事になる。

また、ダニエル・キャフィ中尉には弁護士として実際に法廷に立った経験が無い、というのも、上述した司法制度上の特徴がよくわかる面白い設定である。
彼がこれまで担当してきた事件は、全ていわゆる司法取引によって決着しており、キャフィ自身もそうした交渉事については一家言ある人物として描かれている。

2人の弁護を担当する事になった物語序盤、彼が乗り気で無かったのも、当初はいつも通り司法取引で終わらせるつもりであったから、という側面が大きく、彼の認識が何をきっかけにどのように変わっていくのかも本作の見所の一つである。


物語の構成上、本格的な法廷パートに突入するのは中盤を過ぎてからだが、二転三転する裁判の動向や、法廷での軽妙なやり取りには視聴者を引き込むだけの勢いと魅力がある。
裁判の行方も良い意味で視聴者の裏をかくもので、伏線回収の鮮やかさには思わず膝を打った。


この記事では努めてネタバレに配慮した書き方をした上で、物語理解の一助となりそうな知識や制度の説明に終始したので、興味が沸いたという人には是非映画本編を見て欲しい。

ちなみに先にWikipedia等に目を通してしまうとガッツリオチまで書かれているので要注意。

カセット効果の話

本の話

カセット効果という言葉を聞いたことはあるだろうか。

カセット(cassette)とは「箱」という意味で、直訳が難しい外国語を「厳密には異なるが近い意味を持つ日本語」や「原意にイメージが近い漢字を組み合わせた造語」を用いて多少強引に翻訳することで、その言葉に原意とは異なる独自の意味が込められていく、といった現象を指している。

 

柳父章という人物が自身の著書で主に用いている言葉で、氏は翻訳語研究の大家であり、興味深い著作をいくつも世に出しているが、今回はその中の一冊『翻訳語成立事情』(以下本著)と翻訳についてのお話。

 

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コミュニケーションは難しい

与太話

言葉はいつも思いに足りない、という本がある。劇作家の鴻上尚史が、SPA!で連載しているエッセイ、『ドン・キホーテのピアス』を単行本化した際のタイトルで、私はこの言葉が好きだ。

足りないからこそ自分の気持ちが少しでも正確に伝わるように慎重に吟味して言葉を選ぶし、特に言語が自分の商売道具になってからはその意識が強くなった。

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